6月24日に友達が遊びに来たのだが、実はもう一方ご来客がいた。
生後一年経っていないだろう、まだ若い迷い猫だ。毛並みが綺麗なことから、ある程度育ったから、やっていけるだろう、とのことで捨てられたのではないかと僕らは想像している。あるいは運悪くはぐれてしまったのか、だ。
とにかくうちに来るまではどこかで人間に育てられたということは間違いないと思う。なぜなら、人を全く怖がらないばかりか、とんでもなく甘えん坊の猫なのだ。顔を合わせると、甘えた声で鳴き、側にきて、身体や顔をこすりつける。膝を叩けば、ヨイショとゆったりと座った僕らの脚に上がって、行儀良く座っている。
とにかくいつでも鳴きながら近づいてきて、鳴きながら後をついてくる。別にお腹がすいてなくても、僕らを必要とするように、この上なく甘える猫だ。
猫の名前はリック。女の子なのにリックだ。いつのまにかリックになった。勢いでリックになった。というのは、リックが最初に現れた時は、僕らは野良猫に対しての偏見を持っていたし、猫を飼うという責任性を重く考えて、ご飯を振る舞おうとはしなかった。諦めてどこか違う地へ旅を続けるだろうと、軽く考えていて、その時ちょうどリック・ダンコのCDを流していたので、雄か雌かも確かめず、僕が勢いで「おい、リック!」と呼んでしまったのだ。
外でオカリナを吹いている僕の横を離れず、ずっと横顔をこすり続けていた。あの日はよっぽど腹をすかしていたのだろう。僕らは根負けして、出現から、わずか五時間で煮干しを振る舞うことになった。そして満足したのかそれから姿を消した。
それからリックが再訪したのが4日後の、6月28日。その時からどうやら、リックは自分のうちを決めたのだろう。
リックの目は青く、そして美人だ。身体は白っぽく、額と尻尾と耳は焦げ茶色。手足や顔には縞模様のように少し色がついている。
リックはまず相当トロイ。走らない。高い所に飛び乗る姿も見たことがない。僕らの膝や低い丸太椅子に上がる時も、ゆったりとゆっくり上がる。それからとにかく甘えん坊。一般的に猫という輩は、自由で都合の良い道楽者だ。甘えたい時に甘え、一人でいたい時は、こっちがかまうと無視したり、あるいは怒ったりするものだろう。リックはそうではない。常に触ってもらいたくて、誰かの側にいたいらしい。僕が庭の草抜きをしてる間もずっと僕の脚にのって、草抜きを眺めているぐらいだ。
また普通は、都合良く、お腹が空いた時だけ、甘えた声を出して、おねだりするやらしさがあるのが猫なのだが、リックはそうじゃない。鳴いているから、ご飯をよそってやっても、それには興味を示さずに、とにかく僕らに甘えてくるのだ。そう、彼女は品がいい。食事に関してはガツガツしていない。少し満足すると、すぐに「ごちそうさま」をして、僕らの近くに来る。育ち盛りなのに、食が細く、そして僕らがつまむおやつは与えても食べない。
そしてリックは不思議な女の子だ。そんな甘えん坊なのに、僕らがわざわざ家の中に連れて行ってやると、そわそわ、ビクビクして、すぐに外に逃げ帰ってゆく。そして追いかけて行くと、外ではまた側に来て、膝の上にあがる。日中僕らは野良仕事をしている時、玄関も勝手口も開けっ放しだ。そしてテーブルやキッチンには食べ残しやお菓子などが置いてある。また、お菓子やパンなどはキッチンを見渡せば、必ずあるというぐらい食べ物だらけだ。それでも、リックは家にあがらない。お腹がすいていても、自分で狩ることができない。どうしたものか、ものずごくお行儀が良くて、こっちは有り難い。けれど少し寂しい。そんなに手のかからないお行儀の良いリックなら、うちにあがってほしいぐらいだからだ。そのぐらい信頼があるのがうちに今いるリックなのだ。
僕らの新しい家族。犬を飼う前に、鶏を飼う前に、まずリックが家族になった。それも飼うつもりがなかった猫なのに。それはリックが自ら僕らの家を選んで現れたのだ。この縁も大事にしようと僕らは決めている。
僕らは4月から畑を始めて、作付け面積がどんどん増えてゆく。育てる野菜の種類もどんどん増えている。雑草の発育も爆発的になっている。時間を必要とする加工品づくりも毎週のようにある。それに加えて一年間空家で荒れ畑となっていたというハンデを背負ってのスタートだ。とにかく忙しい。のんびりする時間がやはり減っている。僕ら二人はそういう時間がとても必要な人間だのにだ。それを按じてくれたのがリックだったのかぁ?彼女が家に来てから、僕らは休憩を取る時間を取り戻した。そしてリックとのんびり過ごす時間が増えた。子猫がゆとりを手みやげに持ってきてくれたのかもしれない。ありがとう、リック。これからものんびり楽しく生きていこうね。