我が家の風呂は、薪で焚く。屋根に突き出た煙突からもくもく煙が出ていく夕暮れの表情はとても気持ちが和む。湯船の上方が熱くて、底の方が冷たいのも、懐かしい情緒がある。
冬は薪ストーブ、そしてパン屋は石窯で焼く予定。だから我が家は薪がたくさん必要だ。森の豊かな山村だからこそだが、間伐材やいらない製材をもらえることができる。けれど薪は当然もらえない。いただだいた丸太や材木に斧を振り下ろさなくてはいけない。冬が来たり、パン屋を開店させたら、きっと薪割りも日課になるのではないか。そんなことを考えながら、スパンスパン割っていたら、「私もやってみたい」とまりこ。
僕は薪割りが好きだ。スパンと真っ二つにはじけ飛ぶのがとっても気持ちいい。だから、全部僕の仕事でもいいのだが、彼女が薪割りできるようになったら、とても助かるだろうなぁ。
筋力に男女の違いがあるのだから、初心者がうまくいかないのは当然。力の入れ方、抜き方、重心の移動の感覚、的に真っ直ぐに振り下ろす感覚など、ちょっとずつわかってくるだろう。それにしても、身体に芯がなく、上半身、腰、下半身のバラバラな動き、それゆえの体重移動のずれなど、少し笑える(笑)。けれど笑ってばかりもいられない。身体に一本芯をいれて、身体全体で取り組まなければ、腰を痛めてしまうこと間違いなし。
でもまあ少しずつやっていけば、腕や腹筋や背筋の筋力がつき、身体も慣れていくんだろう。
そして薪割りは力じゃない。事実だ。人間は何をやるにしても、芯(重心)を持って取り組むことが大切だ。その芯は硬い鋼のようなものじゃない。緩む時もあり、ピンと張る時もあるような、臨機応変に変化していくものだと僕は思う。そういう水のような使い方あるいは生き方であれば、つまり身体全体をうまく使えば、女性だって簡単にこなせるのだ。そして心身ともにいつも健康でいられると思う。
僕は薪をうまく割る女性達をたくさん見てきた。愛知県のおへそ、岡崎には吉村正先生の「お産の家・吉村医院」がある。そこに集まる妊婦さん達は、
みんな薪割りスパンスパンやっているのです。吉村先生曰く、ちゃんと「美味しく」食べて、ちゃんと「楽しく」身体を使って、ちゃんと「気持ちよく」眠れば、赤ちゃんは逆子だろうが、陣痛促進剤なしに、気持ちよくうまれてくるし、妊婦さんも痛みはなく出産できるし、あるいはセックスよりも気持ちよくって、「もう一度出産したい」と皆が口をそろえて言うようになるらしい。
「柔は剛を制す」。女性のしなやかさをうまく力に変えられれば、薪割りもうまくいくはず。「これからは私に薪を割らして。」とまりこ。三ヶ月後ぐらいが楽しみです。まりこの上達ぶりをまた報告します。
それにしても薪割りは楽しい。力を抜いて、身体と精神を一緒にして、真っ直ぐに斧を落とす。スパンといい音。杉を割ったら、杉の香り。楠を割ったら、楠の香り。桜を割ったら、桜の香り。その場が一瞬にして、木の香りに包まれる。
夕暮れ時、野良仕事にきりをつけて、ビールを飲みながら、薪割りのいい音、いい香り、と戯れるのは、とても幸せな時間です。